979855 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Selfishly

Selfishly

Pa14 番外編?「素敵な休暇の過ごし方」

~ スローライフ ~
         番外編 「 素敵な休暇の過ごし方 」

白く輝く砂浜、打ち寄せる明るく蒼いライトブルーの波。
澄んだ青い空は どこまでも高く、
白浜の後ろに控える森では、野鳥の鳴き声が響く以外は
静寂を湛えて広がっている。

そんな人のいない自然な風景は、
そこに紛れ込んだ者の疲れた心も
綺麗に洗い流し癒していく。

都会に住んでいる人間にとって、
憧れ、夢見る環境ではないだろうか。
そんな場所で何故か、途方にくれる人間が二人・・・。


「一体、なんで こんな事に・・・。」
光輝く風景に すんなりと溶け込み
尚 その中でも金色の輝きを放つ少年が
呆然とつぶやく。

「・・・さぁ?」
明るい風景の中で 異彩を浮かび上がらせる
漆黒の青年は 途方にくれたように打ち寄せる波間の
遠く向こうに流れていく残骸を見つめながら
そんな返事を返す。

二人は、広大な自然の前で
なすすべもなく立ち尽くしていた。



事の起こりは数週間前。
難関のセントラル国立医大に 主席合格を
過去最高得点の記録を軽く塗り替えるというオプションも
つけての合格を果たしたエドワードが
その知らせを受け取った直後の司令部。

「そうか、君なら大丈夫だと思っていたが
 さすがだな。
 おめでとう、エドワード。」

嬉しそうにおめでとうの言葉を告げて話しているロイの
机の上には、セントラル国立医大の合格者名簿が
試験結果と共に置かれている。

上機嫌に電話で話している上司を邪魔しないように
周りのメンバーが 集まって控えめに話しをしている。

「エドワード君から、合格の電話があったようですね。」
ニコニコと人好きのする笑顔を浮かべながら、
楽しそうに話をしている上司を見やる。

「ああ、ってか 中将。
 合格者の名簿を とっくに手に入れてたんだから、
 大将に教えてやりゃー良かったのに。」

「馬鹿だなお前。
 エドの奴から 連絡を貰って喜びを分かち合うってのが
 ポイントなんだよ。」

「そんなもんかねー。
 俺なら 早めにわかるほうが安心だけどな。」

「常に合否のギリギリのお前とエドの奴じゃ、
 格が違うのさ。」

過去、試験、テストと悩まされ続けてきたハボックが
ブレダの言葉を聞いて、嫌な顔をする。

「けれど、凄いものですね。
 現役でも合格の難しい国立大に
 満点主席のトップ合格を果たすとは。」
静かに周囲の会話を聞いていたファルマンが
感心したようにつぶやく。

「おう、大将が頭良いのは知ってたけど、
 まさか、トップ合格とはな~。
 出来るのは錬金術だけじゃーなかったんだな。」

「本当ですよね。
 まだ、受験年齢でもないのに合格なんて
 エドワードさんらしいですよね。」

「まぁ、どこに居ても 何をしても
 目立つ奴だよな、エドの奴は。」

そんな会話をしながら、上司の行動を眺めていた
メンバーは、ロイが受話器を置くと
口々におめでとうを伝えていく。

「ああ、ありがとう。
 まぁ、エドワードなら受かって当たり前だがな。」
そんな不遜な言葉を言ってはいるが、
満面に喜びを湛えている表情と声が
上司の言葉を裏切っている。
この上司が、優秀な家政夫の事を 目に入れても痛くない
可愛がりぶりなのは、メンバー全員 周知の事実だ。

そんな皆の賛辞の言葉を聞きながら、
そわそわと時計を気にして、副官の様子を伺っている。
その様子から、電話越しにではなく
エドワードに会って、直接 おめでとうを言いたいだろう
ロイの心境が 手に取るように伝わってくる。

「・・・その、ホークアイ中佐。」
意を決して、躊躇いがちに言葉を言おうとするロイの先手を取って、
「中将、後30分程で 夕刻からの各国の会見が
 始まりますので、ご用意をお願いします。」
上司の手綱が緩まないように管理をするのが
ホークアイ中佐の最優先の職務である。
どうやら、今日は 手綱を締める日のようだ。

ガックリと肩を落とすロイを気にする事無く
淡々と 会議の内容を確認していく。

「今回の会見は、内容的には重要な決定事項があるという会議では
 ありませんが、
 各国との国交を開いた我が国での初の顔合わせですので、
 将軍以上が欠席をする事は出来ません。
 
 会見が終わりましたら、友好を深める為の親睦会も
 重要な職務となりますので。」
言外に、今日は遅くなりますと伝えてくる中佐の言葉に
わかっていると、しぶしぶ返事を返すロイを
苦笑と共に皆が見つめている。

「で、中将はエドワード君に何かご褒美を上げるか考えておられますか?」
ホークアイからの意外な言葉に、
ロイが表情を緩める。
「そうか、そうだな。
 あれだけ頑張ったんだから、何か褒美をしても
 もちろん、構わないだろう。
 いや、するべきだ。」
先程の気落ちした様子とは打って変わって、
生き生きとするロイに、
にっこりと微笑む。

『中将のテンションを上げるには、
 エドワードの事を持ち出せ。』
は、軍のメンバー全員の暗黙の了解である。

エドワードに厳しく買い物を制限されているロイが
何かに理由をつけては せっせとエドワードに贈り物を
買ってくるのも、実は軍のメンバーの中将に対する対策が
要因の一つとなっているのは、
エドワードに 知られてない秘密の1つだ。

「何がいいでしょうね~。」
気のいいフュリーが、話を咲かすために
話題を持ち出してくる。

「大将が喜ぶようなものか~。
 っても、もう大概中将が買っちゃってますよね。」
ロイの買い物に付き合う事が1番多いハボックは
エドワードの持ち物には、本人より詳しい。

「そうだな。
 それに、エドワードは 余り物では喜ばないしな。」
苦笑しながら、そう話す上司に
皆が、う~んと頭をつき合わして考えている時に
更に中将の意欲向上を促すような ホークアイ中佐の発言が
降ってくる。

「では、旅行などはいかがでしょう?」

「旅行?」

「はい、エドワード君も 以前、旅をしていたとはいえ
 観光気分で ゆっくりと見歩くと言う事はなかったと
 思いますから、これを機に連れて行ってあげるのも
 良いかと。」

「旅行か!
 それは良い案だな。
 さすが、ホークアイ中佐。」

どこに連れていけば良いのかを 頭の中でフル回転させて
考えていくロイの気分は急上昇だ。

「中将、そろそろ会見のお時間です。」

「わかった、すぐに出る。」
先ほどまでの、不満な態度は微塵もみせずに
意気揚々と席を立って出て行く上司の姿をみて、

『中佐、上司の扱いがさすがだよなー。』
と皆が心の中でうなずきあっていた。

しかし、ホークアイ中佐の思惑も思わぬ結果を生む事になり
彼女は その後 頭を痛める事になる。
少々、自らの上司の無謀さを甘くみていた事に・・・。


顔合わせだけの、退屈な しかし重要な会見も
上機嫌のロイの話術のおかげで、
なごやかで明るく進んでいく。

今回の会見は、ロイが中将となって行ってきた施策の
成果でもある。
断絶と言うほどでもないが、アメトリスは 過去、
あまり外交には力を入れてこなかった。
おかげで、国境付近では 小さな諍いや争いが
絶えたことはない。
それを ロイは自分が中将になり、軍を掌握できるように
なると、まずは 各国との国交を広げていくようにした。
おかげで、友好的な国、批判的な国、懐疑的に臨んでやっくる国等
色々と思惑は交じってはいるが、
取り合えず各国とも、今後の考えや打算もあって
国交を深めるのには異議はなかったようだ。
もちろん、大国アメトリスに守ってもらいたいと
思っている希望もあったのだろう。

会議の後の親睦会では、
さらに ロイの機嫌を上昇させる収穫が得れた。

ロイは この会に入ってから
隣のナーディアの大使と熱心に話を咲かせている。
ナーディアは 国としては余り大きくなく
特に重要なポイントにあると言う訳ではない。
観光と貿易が主で、のんびりとした国土カラーを持っている。
そんなさして重要でもない国の大使と
先ほどから熱心に話をしているのは、
この国が、アメトリスに無い海のリゾートとして有名な事を
聞き及んでいるからだ。

親睦会が終わる頃には、すっかりとナーディア行きの話しを
まとめて、ご満悦のロイと大使が固く握手をして
意気揚々と互いの帰路についた。

その後のロイの行動は早かった。
司令部に帰るなり、ホークアイ中佐を呼び指示を与える。
「1週間後に ナーディア共和国へ訪問に出かける事になった。」

「は? ナーディア共和国にですか・・・。」
いきなりなロイの言葉に、今回の参加国の名簿を頭でめくる。
確かに そんな名前の共和国があったとは思うが
中将直々に訪問に行くような国だっただろうか・・・。

「わかりました。
 で、日程は どれくらいで?」
不思議には思うが、上司の言葉に疑問をはさむ前に
必要な事を整える必要がある中佐は
頭を切り替えて、中将に計画を伺う事にした。

「そうだな。
 初の訪問でもあるので、時間にはゆとりが必要だろう。
 半月程と考えておいて欲しい。」
悠然と言い放つ中将の言葉に、唖然とする中佐。

「は、半月!?ですか。」
その期間の長さには、さすが 日ごろ冷静なホークアイ中佐も
驚かずにはおれなかった。
ここしばらく、大きな事件も案件もなく
スケジュール的には 比較的 余裕があるとは言え
半月ともなると・・・我知らずに眉間に皺を寄せてしまう
ホークアイ中佐の様子には 気づきもせずに、
上司は 機嫌よく、その後にも爆弾発言を投下する。

「あぁ、それと今回は 公の訪問ではなく 
 プライベートに行う事になっているので、
 軍からの護衛等の手配は必要ない。」
そう言い切る上司の言葉には、さすが軍の規律があるとは言え
思わず反論を唱えずにはおれず、

「護衛なし!

 それは許可しかねます。
 もう少し、自分のお立場を考えて頂きたいと思います。」
厳しい表情で、そう進言してくる中佐に
あくまでも余裕の様子で返事を返す。

「なーに、軍からの護衛はつけないとは言え
 護衛を一人も連れて行かないと言ってるわけではないよ。」

中将の その言葉に、ホッととするより 何となく嫌な予感を感じ
静かに 聞き返してみる。
「その護衛とは?」

「ああ、エドワードを同行する。」
ニッコリと笑顔を浮かべて、さも当然のように言う中将に
腰にあるホルスターに思わず手が行きそうになる中佐であった。

その後、中佐は上司のエドワード絡みの行動への予測が
甘かった事を再認識させられる事になった。

 


ナーディア国の海は 共和国というだけあった
海流の中に 大小の様々な島が点在する。
小さな島では無人の島も数多くあり、
島の数も正確には把握されていない。
海流自体は穏やかだが、島になりきらない岩礁が無数にあり
あちらこちらと浅くなっている海溝が、
外敵の侵入を阻んできたのも
この国が守られてきた1つの理由だ。

今、エドワードが走行しているのも
貿易航路とは全く違う区域で、
彼方に遠く見える大きな島の残像と
周囲には小さく点在する島達しか見えない。

「エドワード、そろそろ戻るほうがいいんじゃないかな。」

朝からヨットを操り、すでに港とは遠くまで来ている。
そろそろ引き返さないと、戻るときには夕刻になるだろう。
嬉しそうにセーリングを楽しんでいるエドワードをみていて、
連れてきて 本当に良かったと思う。

ナーディアに着いた二人には、
大使の計らいで、二人がプライベートで楽しめるように
手配されており、
その中でも、エドワードが1番喜んだのが
海に関する事だった。

持ち前の運動神経と、記憶力を使い
ヨットの操縦をマスターしたエドワードは
今日も 早くからロイを乗せ、セーリングに出かけていた。

「そうだな。
 今日は大分遠くまできちゃったよな。」
日に焼けても黒くならないエドワードの肌も、
赤みをさして、半袖のTシャツと短パンから 
健康的な姿をみせている。

「しかし、上手くなったもんだね。」
気候に合わせて、半袖のコットンシャツに 
スラックスと言う涼しげな格好をしているロイが
リラックスして エドの操るセーリングを
楽しんでいた。

「あはは。
 毎日 こればかりしてるからな。
 でも、あんたは退屈じゃないか?
 俺に付き合ってばかりで。」

舳先をスムーズに転換して帰りの進路に合わせる。

「そんな事はないよ。
 君が覚えてくれたから、私は楽して海を楽しめる事が出来て
 嬉しい限りだ。」

「わぁ~、なんか年寄り臭いぜ。」
広い海のおかげか、周囲に人がいないせいか
珍しくも 二人とも緊張感を解いて
軽い言い合いも楽しく興じている。

が、二人は知らなかったのだ。
こういう海の国では珍しくも無いスコールと言うものが
あることを。


和やかなセーリングを 一転して恐怖に落とし込むようなスコールは
いくら短期間で上手くなったとは言え、
初心者のエドワードを動転させるのに十分な出来事だった。

「わぁー!!
 なんだこれ~。」
さっきまでの快晴の天気が嘘のような豪雨は、
バケツをひっくり返すなどの可愛いものではなく
まるで、海をひっくリ返す勢いで
二人の乗ったヨットを巻き込んでいった。

「エドワード!
 立つな、危ない。」
懸命に舵を操ろうとするエドワードの手を引いて
傍に抱き寄せた途端、
運悪く突き出していた岩礁にヨットが激突する。
その振動で、ヨットから掘り出された二人は
豪雨の降りしきる大海に飲まれる事になった。

ロイが咄嗟に掴んでいた救命具に二人して捕まり
雨と翻弄される波にに耐え忍んいく無限に続くかのような時間も
嘘のような快晴と共に去っていった。




「よっしゃー!
 食料確保。」

嬉々として、練成した銛に串刺し他魚を高々と上げて
成果を満足げに披露する。

「エドワード、火の準備は出来たよ。」
波際の方から、自分に呼びかけてくる声に獲物を振り
そちらに戻っていく。

「またえらく沢山捕まえて来たんだねー。」
銛以外にも、即席で作った網に大小の魚を入れて
海から戻ってきたエドワードに感心をする。

「おう、男二人だから 
 これっくらいは要るだろ。」
ロイが石を集めて用意した炉に 魚を並べながら
ロイに火を点ける様に頼む。

「パチン」と指を擦ると、炉に火が点る。
後は、魚が上手く焼けるのを待つだけだ。

「全く、一時はどうなるかと思ったけど・・・。」
焼ける魚を待ちながら、砂浜に腰掛けて二人は
しみじみと思い返す。

スコールが去った後、使い物にならなくなったヨットは
早々に見捨て、1番近い島に移動する事にした。
海から上がると、さすがに脱力して しばらく呆然としていた二人だが
サバイバルに強い二人組のこと、過ぎたことは過ぎたことと
さっさと頭を切り替えて、当座 生きるのに必要な事の準備に
取り掛かった。

食料は、昔とった杵柄(?)な技をエドワードがご披露し
今のところ特に支障はないようだ。
食べ物の次は水だが、
こちらもロイの博識のおかげで 木の実に豊富な水分を持つ椰子の実を
ロイが採ってきたので 今日の分には問題がない。
寝る場所にしても、練成材料に困らない森林があるので
簡単なログハウスを エドワードが練成した。

どんな状況でも、生き残れる二人組みである。

焼けた魚を頬張りながら、今後の事を話し合う。
「今日中に帰らない事がわかれば、
 明日には 大使から捜索が始まるだろうな。」

「そうだな、なるべく見つけてもらいやすいように
 狼煙は上げといた方がいいよな。」

こんな状況でも、さして動揺したそぶりも見せず
旺盛な食欲で、魚を平らげていく。

「しかし、君も動じないねー。」
そんなエドワードを、感心しながら見る。

「まぁ、俺ら。
 修行の時に同じ環境で過ごした事もあったしな。
 その時に比べれば、練成してもOKなんだから
 だいぶん、楽だしな。

 あんたの方こそ、さすがは腐っても軍人だよなー。」

「腐っても・・・って、
 それはあんまりな言い方じゃないか。」

「あはは、ごめんごめん。
 いや、いつもデスクワークに追われてるイメージが
 多くてさ。
 なんか、サバイバルってイメージが湧かなくて。」
屈託ないエドワードの言葉に苦笑しながらも
不快な思いは 少しも受けなかった。
ロイ自身、この ちょっと変わった環境も
エドワードと一緒なら、存外 楽しいものだと思っている。

「まぁ、どっちにしても 助けが来るまで待つってのも
 時間の無駄なんで、明日は 周辺の探索に出てみるか。」

「そうだな、この島が無人かも調べた方がいいだろうし。」

海に落ちる夕日が 綺麗に砂浜を染めていく。
二人して それを見ながら、明日の探検をワクワクしながら
話を続けていた。

陽が落ちると 都会とは違い、周囲は暗闇に包まれる。
光といえば、海に写る月の光と 夜空に無数に散らばる星明りだけになるが、
それらが意外に明るい事を知った。

「でさ、そん時にアルが言ったわけ。
 『 もう兄さん、なんで いつもそう考えなしに動くわけ』って。」

エドワード練成のログハウスで、葉の繊維を式布に作って広げた上で
二人は寝そべったまま、自分達の話を交互に繰り広げていた。

「その気持ちは良くわかるね。
 アルフォンス君の苦労が目に見えるようだ。」
うつぶせに転がって、組んだ腕に頬を置いて
エドワードの方を見ているロイが
楽しそうに話に聞き入っている。

セントラルに居る時には、常に時間に追われ
日々の事に追われで、気づいてみると
互いの事は意外に知らないままの事が多かった。
ロイとエドワードは、今のこの二人しかいない中で
自分の目の前に居る人物が、どんな事を考え、経験し
思ってきたのかを知る。
そして、こんな時間こそ 本当はロイが1番欲しかった時間なのかもしれない。

二人の会話は途切れる事無く夜が耽るまで続いていく。


いつの間にか寝付いてしまっていたのだろう。
人の動く気配で、ふと目が覚めると
傍にエドワードが 気持ち良さそうに眠る顔が見えた。
多分、寝返りをうって転がってきたのだろう。

傍に居たエドワードを感じた途端、ロイの中に大きな安堵感が生まれる。
彼らが去ってから1年後。
ロイの前に再び姿を現したエドワードだったが、
セントラルの家で 一緒に暮らしているにも関わらず、
ロイは 常に漫然とした不安を抱えていたような気がする。
また、いつか 自分の前から姿を消すのではないだろうかと。

でも、今この時は 彼が自分の傍に居てくれる事を信じられる。
二人しかいない環境で、寄り添って生き抜くしか道が無い今、
ロイは エドワードに再会してから初めて感じる 深い充足感を
感じている。
ずっとこのままの時が続けばよいのにと思うほど。

決して有り得ない夢物語だとしても、
今は その夢を見てもよい時間だ。
覚めるまでは、この夢に浸っていたい。

そんな事を思いながら エドワードを見つめていると
視線を感じたのか、ふいにポカリとエドワードが目を開ける。

驚くロイに、エドワードは寝起きの掠れた声で小さくささやく。
「どうしたんだ? 寝れないのか?
 大丈夫、俺は どこにもいかないから。」
そんな言葉をつぶやきながら、ロイの頭を撫でてくる。

撫でていた手がパタリと落ちる。
寝惚けていたのだろうエドワードは、
そのままスヤスヤと眠りの淵に
戻っていった。

一連のエドワードの仕草に、ロイは 自分でも
受け止めきれない想いが溢れてくるのを感じていた。
泣きたいのか、笑いたいのか、
哀しいのか、嬉しいのか
相反する想いが生まれては交差する。
今もし、エドワードが恋人だったなら
迷わず腕に抱きしめていたことだろう。

エドワードの中に潜んでいた彼の本来の姿がロイには
見えたように、
エドワードも、ロイの中に仕舞い込まれて姿を現さない
ロイ・マスタングと言う名の ただの寂しがり屋で孤独な人間を
見つけてくれているのかも知れない。
それは、人として どれ程嬉しい事だろうか。
自分を気にかけ、思ってくれ、理解してくれる者が
自分には在る。
そう思え、信じられる事は・・・。
そんな幸福感に浸りながら、
同じ夢を得れるよう、ロイもまた 眠りの淵に戻っていった。

翌朝、海岸に昨日の椰子の実の油で狼煙を上げるように
練成し、二人は 取り合えず 海岸線を探索に出る事にした。

「こっち側も これ以上は無理のようだな。」
そびえたった断崖を見ながら、そうロイがつぶやく。

「うん、あっちも同じだったから、
 残すは 森林の方だよな。」

半日をかけて、それぞれの海岸線を確認に行った二人は、
その方向からは 島を廻り込めない事を知った。

「そうだな、明日は 少し準備をしてみてから
 林の方にも足を進めてみるか。」

そうエドワードに声をかけて、来た道を戻ろうとしたところ
エドワードが 熱心に磯で探し物をしている姿が目に入る。

「エドワード、一体 君は さっきから何を探しているんだい?」

「食料。」
簡潔に そう答えては、磯の中に手を突っ込んでいる。

「ほら~!」
エドワードが 得意満面に見せた手には
大振りなエビが捕まれている。

「ここら辺、浅瀬の湾になってるから、
 結構、海に帰りそびれた奴が色々といるぜ。」

じっと、岩の間に出来た大きめな溜まりの中を見ているかと思うと、
「ロイ、これ持ってて。
 んで、同じの捕まえといてくれよ。」
と言うや否や、シャツを脱いで持ったかと思うと
 その中に潜り込んでいく。

「エドワード!」
エドワードの行動に焦って 覗きこんでみるが、
海底に着いたエドワードが、何やら集めて脱いだシャツに
入れている。
その姿に ホッとする。
エドワードが無事なのに安心すると
そのエドワードの右肩にはめているバンドに目がいった。
おしゃれに気を使うタイプでもない彼にしては
何やら不自然な気もするが、
ひとまず今は、エドワードの安否が肝心だ。


「全く・・・。」
エドワードの突拍子もない行動にあきれてため息をつきながら
手に持たされた大きなエビを見る。
「仕方ない。」
そう声に出してつぶやくと、
潜らなくても獲れる所で動いている同じ輩を
捕まえる為に、腕を伸ばした。

本日の夕食は、エドワードとロイの働きによって
豪華な食事になった。
ロイが せっせと捕まえたエビと
エドワードが 潜って獲ってきた大きな貝類は
塩味だけで火にかけて食べても十分美味しかった。

「はぁー、満腹。」
食べ終えた後、満足とばかりに腹をさすっているエドワードは
食後の猫のようだ。
それを見て、クスクス笑うロイに気づき
エドワードが なんだよと目を向けてくる。

「いや、君の狩猟の本能には恐れ入ったよ。
 とにかく、食糧確保を最優先できるのは素晴らしい
 能力だと感心してね。」

「だって、魚も上手いけど そればっかりもあきるだろ?
 ロイが 食べに連れて行ってくれた所で
 似たようもんがあったから、食えるだろうと思って。」

「君のおかげで、ご相伴させて頂けました。
 ありがとう。」

「おう、ロイが一杯捕まえてくれた奴も上手かったよな。

 後は シャワーがあれば言う事なしなんだけどなー。」

海水と潮風で、かなり体がべたつく事は気になるが
こんな状況では、あまり贅沢も言えない。
しばし、考えこんでいたかと思うと、

「ちょっとだけ、林の方に入ってもいいかな?」
と、唐突にエドワードが そう伝えてくる。

「こんな時間から?」
概に陽は落ち始めている。

「うん、そんなに中まで入らなくても
 大丈夫だと思うんだ。」

よいしょと立ち上がり、林を目指して進んでいく。
林の端に建てたログハウスを通り越し、
さらに奥まで入っていく。

生い茂る木々の中でも、特別大きく育っている木の傍で
立ち止まると 

その近くを見回し、目当ての場所をみつける。
「エドワード、一体何を?」

「う~ん、上手く行くかは解らないけど
 ちょっとやってみる。」

『だから、何をやるのか?』と聞こうと そばに寄ろうとした瞬間、
エドワードの見つめてる先で 練成反応が起き、
地面陥没し大きなクレーターが出来る。

「エドワード!! 
 何をしているんだ。」
焦って言葉をかけてくるロイに、

「泉。」
目線をクレーターから離さずに、答えを言う。

エドワードの造ろうとしているものが解り
空いたクレーターの方を見てみると、
底の方から 水が溜まり始めている。

「よっしゃ、いけそうだな。」
満足げに それを見てうなずく。

「地下水を引き上げたのか・・・。」
呆然とロイが言葉をつぶやいた。

「そう。
 こんなけ樹木が茂ってるって事は
 地下に水源があるんじゃないかと思って、
 水が反応しそうな練成で探ってみたら、
 この場所が反応したんで、わかったんだ。」

水が溜まるまで しばらく時間がかかりそうなので
エドワードは そこに座り込んだ。
ロイも それに習って 横に座る。

「聞いてはいたが、驚いたよ。」

エドワードから、身体を取り戻した練成時に
アルフォンスの分の力を取り込んだ事は聞いてはいたが
まさか、ここまでの練成を陣もなしに出来るとは
驚きだった。

「練成は、造る以外にも 使える方法があるんだ。
 練成を走らせる事で、物質の構造がわかったり
 探ったり。」

コポコポと湧いて出る水を見つめ、
エドワードが 話続ける。

「なんで、それが判ったかって言うと、
 最初の頃、何でも 練成を起こしてたんで
 何とか それを止め様とやっきになってたら
 下手に止めるよりは、きちんと理解するよう意識を向けたほうが
 練成を起こす前に止めれるのに気づいたんだ。」

「なるほど、起きた練成を止めるより
 最小限での練成で止めるわけだ。」

「そう。」
即時に 自分の伝えたいことを理解してくれるロイに
笑顔を向ける。

「しかし、それに良く気がついたものだ。」

「うん、最初は 全然、そこまで気が廻らなくて
 起きる練成に追われて止めるのに必死だったんだけど、
 ある日 疲れすぎて、どうでもいいやって気になったんだ。
 
 そしたら、頭の中に構造が見えるみたいにわかって
 あーこんな風なんだーとか思ったら、
 ピタッと練成反応がおさまってさー、
 それからは、ちゃんと意識を保てる時には
 探るだけで止めれる事がわかったわけ。」

何事もなかったかのように簡単に話すエドワードを見て、
彼の話す様には簡単でなかっただろう、
彼が強いられて苦労を思う。
そして、錬金術師なら 誰しも出来るという事でもない。
少なくとも、ロイには そんな風に練成を動かす事は
不可能だ。
今のエドワードの力だからこそ可能になった事なのだろう。

「んでも、時たま 暴走しちゃうときがあって、
 それを押さえるのに1年近くかかった。」
その苦労の日々が金色の瞳によぎっていったのか、
いつも強く輝く金の光が、陰を浮かべている。

「今は、もう大丈夫なのかい?」

「うん、よっぽど 感情が暴走しなければ。

 後は寝てるとき。
 夢は自分で操れないから、意識を保てないだろ?
 たまーに、寝てるときにやっちゃう事もあった。」

瞳の陰が濃くなり、エドワードの表情にも憂いが浮かぶ。
多分、彼が感情を暴走させる夢とは 自分の母の・・・。

今のエドワードは、いつもより小さく見える。
いつも、しっかりと前を向いている彼が
過去という名の腕に巻きつかれ、引き戻されて行きそうだ。

ロイは 自然と、昨日エドワードが自分にしてくれたように
彼の頭を撫でてやる。

「な、なんだよ。」
ロイの急な行動に、考えに浸っていたエドワードが
驚いて現実に戻ってくる。

「いや、偉いなと思って。」
そう言って、微笑んでやると
照れたのか、頬を紅くして プイっと横を向く。

「偉くなんかない。」

「いや、偉いよ、君は。」

「偉くなんかないって!」
ムキになってロイに言うエドワードに、
クスクス笑いながら、

「いや、君は偉い。
 努力家だよ。」と繰り返し言ってやる。

「あーもう! あんたときたらー。」
癇癪を起こしたように頭を振って、ロイの手を払いのける。

「あんた、怖くないの?」
そう真顔で聞いてくるエドワードに
「何故?」と返す。

「だって、何でも練成させちゃうんだぜ。
 傍に置いたら危ないに決まってるだろ!」
自分で言っている事に、自分で傷ついている表情を浮かべ
エドワードが言い募ってくる。
彼自身は そんな表情を浮かべてしまっている事には
全く気づいていないだろうが。

「別に、怖くないよ。」
エドワードの 深層に押し込められていた彼の不安な顔を持つ
彼自身を怯えさせないように、ロイは穏やかに優しく、
当たり前だと言うような声音で言ってやる。

「君は 人を傷つける事を潔しとしない。
 その君が こうして姿を現したという事は、
 ちゃんと 自分で抑えれるだけの力を持ったからだろ?
 私には ちゃんと解っているから、怖くない。」

そう言ってやると、エドワードは目を瞠りロイをまじまじと見る。
そうして、しばらく躊躇っていたそぶりを見せて俯いたが、

「ありがとう・・・。」
と小さくつぶやき、顔を上げる。
どこまでも透明で美しい瞳にうっすらと透明の雫を浮かべ
微笑む寸前で止められたように 薄く開いた唇を震わせ
今にも泣きそうで、微笑みそうな どちらともとれる
綺麗な綺麗な表情・・・。

その表情は、ロイの心の奥深くに刻み込まれて
とても生涯忘れられそうにない。
絶望の暗闇を孤独(ひとり)で歩む事を覚悟を決めた人間の前に
天から差込み、自分を照らす光に 救いを見つけた時、
人は こんな表情をするのかも知れない。

見入っているロイをよそに、
スクっと立ち上がったエドワードは、
さっさと着ている物を脱ぎ、泉に入っていく。

エドワードの突然の行動に、あっけにとられているロイに
泉の中から エドワードが ブンブンと手を振ってくる。

「ロイー、サンキューな。
 俺、本当は ずっと怖かった。
 いつか、自分が 誰かを、大切な何かを傷つけるんじゃないかって。

 でも、あんたが信じてくれるてるんなら大丈夫だって
 自信が持てる気がするよ。」

そう言うと、トポっと泉に潜って姿を隠した。
そんなエドワードの言葉に、喜びを感じ、
潜って隠れたエドワードを探すために、
ロイも泉に足を踏み込んで行った。


「はぁ~、さっぱりしたー。」
体と ついでに服も洗って海水を落とすと
気分も気持ちも 俄然良くなった。

乾かした服を着込んで行くエドワードに
昼に気づいたバンドについて聞いてみる。

「エドワード、この肩にしているバンドは何なんだい?」
昼は遠目で良くはわからなかったが、
どうやら繊維で編まれた物の様だ。

「ああこれ、ストッパー。」

「ストッパー?」
その意味は?と聞きたそうなロイの顔に
悪戯子憎のような笑顔を浮かべ

「もしもの時の予防だよ。
 
 あの練成の嵐の中、唯一全く被害に合わなかったんだ
 アルフォンスの奴。
 多分、無意識化でも アルの事は認識してたからだろうけど。

 なんで、アルが俺のストッパーってわけ。
 これは、アルの髪を編んで作ったお守り代わり。」
嬉しそうに話すエドワードを見ながら、
ロイは 心の中でため息をつく。
『全く、この兄弟の絆の深さは・・・』

こんな海の孤島で二人っきりだと言うのに
エドワードには 常にアルフォンスが付いて廻る。
仕方が無いと思う反面、
自分であって何故いけないのかと思う気持ちも浮かんでくる。
その夜は、口数の少なくなったロイに
疲れているのかと気遣ったエドワードが
早めに休む事にした。
その夜、
すやすやと寝るエドワードの寝息を聞きながら
ロイの眠りは なかなかやっては来なかった。

その後数日間、エドワードとロイは
島を探索に出かけたり、戻っては時間が過ぎるのも気にせず話をし、
時には海で泳いだりと、とても難破した人間の行動とは思えない
楽観的な過ごし方を満喫した。
セントラルで一緒に暮らしていても、一緒にいる時間は少なかった二人が
朝から晩まで、起きるのも寝るのも一緒に過ごすと言うのは
新しい相手を知る喜びと、驚きがある。
けれど、誰でもそうではないだろう。
極限の中で、そうやって時間を過ごせるのは
偏に 二人が互いの先に不安を持っていない事が前提で、
許された時間を費やす気持ちが大きいからでもあるし、
互いの相性が良くないと、とても四六時中同じ人間と過ごすなど
例え、恋人に成り立てのカップルでも難しい事に違いない。

そうやって、限られた休暇を思う存分楽しんで過ごす事に決めた二人に
休暇の終わりを告げる船がやってきた。

白くうねる波間を、高速で近づいてくる船が目に入る。

「来たな」
ポツリと言葉を吐くロイに
「うん、ここでの休暇も終わりだな。」
と 少し残念そうな響きを含んで エドワードが告げる。

「ああ、でも また来よう。
 二人で出来なかった探索を続けに。」
そう言いながら、エドワードに笑いかけると

「おう、楽しみにしてるぜ。」
とエドワードも笑顔で返してくる。

二人を見つけたナーディアの探索隊は、
元気にしている二人に安堵し、
無事であった事を心から喜んでいた。
そんな人々に、少々 うしろめたい気持ちも浮かんだが
見つけてもらった感謝を前面にお礼を伝え
船に乗り込んで帰還する。

遠く離れていく島を眺め、感慨深げに佇む二人を
助けられた安堵からの物思いだろうと勘違いした
周囲は、二人に声をかける事もなく
そっとしておいてくれた。

港に帰った二人を待ち受けていたのは、
心配で憔悴した大使と、眉間に青筋を立てて笑顔を
貼り付けていた ホークアイ中佐の姿であった。

さすがのロイも、綺麗で恐ろしい副官の その形相には
背中に冷たい汗が伝うのを止められずにいた。

人払いをした部屋で、懇々と叱られ、
残りの査察という名の旅行も打ち切りを告げられたが
二人には 反論する気概はなく、ただ 何度もうなずくだけであった。


セントラルへの帰る列車の中、
機嫌が悪いままのホークアイ中佐が 
ふと気持ちを切り替えて
思い出したようにエドワードに言葉をかける。

「でも、エドワード君も せっかくの旅行が
 あんな目にあって、大変だったわね。」

どんな状況であっても、この二人が困る事はないだろうとは
思っていたが、楽しみにしていた旅行で あんな目にあった
エドワードには、同情を覚えての発言であったが、

「えっ、なんで?」
『なぜかね?』

「すごく面白かったぜ。」
『いい休暇だったよ』

異口同言で返す二人に、こいつらはー!と
こぶしを固める結果となった。

その後、セントラルに着くまでの間
ホークアイ中佐は だんまりを決め込んで
二人を無視し続ける事になる。

気まずい雰囲気の中、
ふと目が合うと、へへへと悪戯がばれた子供のように
二人して笑顔を交し合った。


この旅行のおかげで、エドワードもロイも
互いの知らなかったこと、気づかなかったことを
沢山 発見した。
それは、これからも すれ違いが多いセントラルでの
同居生活を差支える礎になるはずだ。
そんな事を思いながら帰る二人には、
今回の 素敵な休暇が過ごせた事を
心から 「良かった」と思って・・・。


[ あとがき ]

番外編、(番外編なのか?)
別に番外編ではないような・・・。

本当は 番外編で出すつもりでしたが、
どこらへんが番外なのか解らなかったので
そのまま本編でアップする事に。

まだまだ、番外編を作れる程 力がありませんでした。(苦笑)


© Rakuten Group, Inc.